ディアベリーの渡辺洋平さんが語る、北海道のエゾシカ問題から見える「命」のあり方。

ーー「私たちが生きているこの土地は、すごく大きなものの一部で、私自身もその小さな一つに過ぎないのかもしれない。でも、そんな自分の”命”を燃やしながら少しでも誰かのためになることはなんだろうか?」

渡辺さんの話を聞いて私はこのように考える。今回インタビューさせていただいた横浜国立大学の渡辺洋平さんは、故郷である北海道における鹿と人間の共存における課題の解決に奔走しながら、私たちに「命」のあり方について教えてくれている。

今回のインタビューでは、渡辺さんの運営しているディアベリー 株式会社の事業を紹介しながら、渡辺さんの想いについても深掘りしていきたいと思う。

プロフィール

項目 詳細
お名前 渡辺洋平(わたなべようへい)さん
大学 横浜国立大学 経営学部4年生
SNS Twitter

インタビュー

高山

渡辺さん、今回はよろしくお願いいたします。

渡辺さんは、「北海道の鹿についての課題」を解決するプロジェクトを行なっているということですが、簡単にその事業内容を教えていただいてもよろしいでしょうか?

渡辺さん

よろしくお願いします。僕は、「ディアベリー株式会社」という会社を2022年の12月に立ち上げ、野生の鹿の皮革を使用したレザー製品を作ったり、鹿に関するイベントを実施したりといった活動を行なっております。

大学に入ってから「起業したい」という気持ちがずっと自分の中にあり、いろいろな挫折や試行錯誤を重ねながら、「起業する意味」を考えたりしてきた中で「鹿についての課題を解決する会社を始めよう」となった形です。

高山

なるほど。もともと起業をしたいという気持ちがあったわけですね。

でも、「鹿についての課題」というのは、なかなかすぐに思いつくようなことでは無いと思うのですが、どうして鹿についての会社を始めようと思われたのでしょうか?

渡辺さん

もともと、鹿についての課題を感じ始めたのは大学1年生の終わり頃ですね。

そもそも、鹿についての課題と言われても大多数の人がパッと思いつくようなことでは無いと思いますし、なかなか興味を持たれにくいことだと思うのですが、僕は高校生まで北海道に住んでいたので、僕にとっては本当に身近な存在でした。

しかも、全国でも鹿が絡む交通事故の件数が、北海道は4年連続過去最多を更新していたり、通学の時にも鹿が飛び出してくるようなことがよくあったりと、自分の中でも「鹿が増えすぎている」という点は感じているポイントだったことも大きいと思います。

高山

なるほど。北海道に行って車から鹿を見たことはありましたが、今はそんなに増えているんですね。

渡辺さんは北海道のどちらで過ごされていたのですか?

渡辺さん

北広島という、新千歳空港と札幌のちょうど真ん中ぐらいにある小さな市です。

高山

札幌の近くというとそんなにそんなにたくさん鹿がいるイメージはありませんでしたが、、

渡辺さん

そうですね。でも実は結構たくさん生息していて。ちなみに、札幌にも最近は結構出てくるんですよ。

家族からも、「また今日も鹿が横切ったよ」みたいなLINEが来たり。

高山

意外でした。結構身近な存在なんですね。

増えすぎた鹿と、その課題

高山

北海道では非常に鹿が身近な存在であることを教えていただきました。

ここからは、その鹿に関する課題について掘り下げさせていただければと思うのですが、現在北海道の鹿についての大きな課題としてはどのようなものが挙げられるのでしょうか?

渡辺さん

具体的には、「獣害」と言われることが多い「鹿が増えすぎることによって人間の生活が脅かされる」という課題があり、それに伴って捕獲された鹿の処分に関する課題と、二軸の課題が存在しています。

高山

確かに。獣害について耳にすることは多くとも、その対処や動物の処理についてはあまり聞きませんね。

渡辺さん

そうなんです。

交通事故や農作物などへの影響は大きく、柵の設置など生息地を分ける取り組みは行われているものの、最終的には捕獲するという道を選ばざるを得ません。

でも、そうするとたくさんの鹿を処理しなければならないという問題も発生し、現在は捕獲者による現場での埋設処分が多くなっているのですが、実際は穴を掘るのも大変で、搬出も大変で、産業廃棄物として処理することにも大きな費用がかかる点で、持続可能性が低い状態です。

僕自身も、捕獲後に放置されていた個体を見たことがあります。放置されると、肉食獣の餌となり、生態系に大きな影響を与えてしまうという課題もあります。

それに何より、「命」という観点で見た時、綺麗事ではありますが「かわいそう」と思うのも当然だと思います。

高山

そうですね。何とかならないものかなと考えてしまいます。

渡辺さん

そこで、縄文時代に遡って考えると、肉を食べたり毛皮をきたりという「資源」として鹿の狩りが行われていました。

近代で言うと、明治時代には「毛皮を取るために捕獲しすぎて絶滅の危機」といった出来事もあったほど、貴重な資源だったわけです。

ただ、僕は歴史を遡ってロジカルに鹿の課題を解決しよう、というよりも「命を無駄にしたくない」という想いがある上でロジカルに課題を解決しているという感じでしょうか。

高山

一番センシティブかつ深い部分に踏み込まれてらっしゃると思います。

動物の「命」については様々な考え方がありますからね。渡辺さん自身はどのように考えられてるんですか?

渡辺さん

感情的に一番受け入れやすいのは「命を奪わない」ということだと思っています。

でも、食物連鎖を始め、人間も生物として命の循環の中で生きているとも考えていて。

なので、できる限りその命を無駄にすることなく「頂く」という形にしたい。理想と現実の間で模索している形ですね。

「シカ起業家」として

高山

ここまでは、北海道での鹿との共存やその課題、そして渡辺さんの想いについて詳しく教えて頂きました。

ここからは少し話題を変えて、渡辺さんの「起業」に対する想いについても教えていただければと思うのですが、渡辺さんが起業を志した動機はどのようなものだったのでしょうか?

渡辺さん

最近になってやっとわかってきたのですが、今まで僕が何か行動を起こすときに持っている感情の一つに「反抗」というものがあったのかなと思っていて。

小学生のときに、3月生まれで体が小さいといじめられた時は「負けねえ」という気持ちで筋トレをしたり、高校生の時にサッカー部に入っても「自分がやりたいのはこんなことではない」と思って3日で辞めて自分でサッカーチームを作ったり。

最近のことでいうと、成人式でも少し自分の気持ちに障ることがありましたね。

高山

成人式?

渡辺さん

はい。成人式とかって、偉い人が前に出てきて話をしたり、それに礼をしたりするじゃないですか。

でも、その人は全然知らない人で、僕がその人に対して感謝や尊敬の念を感じているわけではないのになんで礼をしなきゃいけないんだろう?みたいな。

高山

なるほどなるほど。自分はなんとなくで過ぎてきてしまっていました。

渡辺さん

そこで思い返してみると、学生時代から見えない圧力や上からの締め付けみたいなものに不快感を感じていたことに気づいたのですが、自分の「自己主張ができない」という性格ゆえに押し殺してきたんだなあと思ったんですよね。

その時に、ずっとフラストレーションに近いエネルギーが溜まっていたんだなと思って。

このまま就職して会社員になっても同じことの繰り返しでいつか限界が来ると思ったので、「自己表現をするならここで起業をしよう」と思って行動に移しました。

高山

すごくわかります。僕自身も、働き方にも向き不向きがあるのではないかとずっと思っています。

ちなみに、渡辺さんが「鹿」の分野で事業を行おうと思う前にはどのようなことをされてらっしゃたのですか?

渡辺さん

元々僕が経営学部を選んで進学したのは起業をしたかったからなんですよね。

高校の頃から起業を見据えていたこともあり、センター試験が終わるや否や「金を稼ぐんや!」と思ってプログラミングの勉強をしたり、インターンもたくさんしてきました。

そのあとは、旅行代理店を開こうとしたり、「ピラティスが最近来ている」と聞いてピラティスの情報サイトをやろうとしたり、、、

最近では、AIカメラという顔認識をするカメラを作ってみたりと、いろいろやろうとしてきたものの、完成もせず、リリースもできず、、、

「自分は何も続けられないのではないか」という不安にずっと襲われていました。

渡辺さんが開発したAIカメラの画面

高山

ああ、、、すごく共感します。

自分も似たような経験があるので、その気持ちは痛いほどわかってしまいますね。

渡辺さんがそれぞれの分野で挫折したときの共通点はどのようなものでしたか?

渡辺さん

全てに共通して欠けていた要素がありまして。

まずは、「オリジナリティ」、そして「孤独」です。

実は、今の事業が続いている理由はこの欠けていた二つの要素がしっかり揃っている、ということなんですよ。

まだこの分野は研究の余地もありますし、なにより若い世代で鹿に特化したこのような事業に取り組む人はかなり少ないです。

それに一緒に活動する仲間もたくさん集まってきました。

高山

なるほど…。その共通点を早い時点で見つけることができたことも成功の要因だったということですね。

ちなみに、最近はジビエなどで野生動物関係のプロダクトも注目を集めているように感じますが、業界としてはまだブルーオーシャンなのでしょうか?

渡辺さん

そうですね。まだまだ少ないです。

ただ、最近になって徐々に増えてきているように感じます。

僕のプロダクトは、構想からリリースまで約1年をかけて準備してきましたが、その間にも「ジビエレザーをやりたい」と声をかけてきた僕より年下の人もいらっしゃって。

競合も増えているのかなあと思っています。

高山

SDGs等でも注目を集めていますしね。

渡辺さん

そうですね。ただ、鹿レザーやジビエレザーというカテゴリ同士の競合というのはそんなにないと思っていて。

そもそも「鹿レザー買いて〜!!」と思う人って、まだまだ少ないじゃないですか。

「かっこいいレザー製品が欲しいな」と思ったときの選択肢として初めて注目を集めると思うんです。

高山

確かに。私自身も「鹿のレザー製品が欲しい」と思ったことは今までなかったですし、そもそも存在を知らない人が圧倒的に多数ですよね。

でも、選択肢が増えるのはとても素晴らしいことなので、どんどん広まっていくといいなと思います。

プロトタイプができるまで

高山

最後、渡辺さんの今後の展開や目標を聞く前に、製品が誕生するまでのお話も伺いたいなと思うのですが、渡辺さんはどのように原料を仕入れたり加工したりしていらっしゃるのでしょうか?

渡辺さん

北海道にあるエゾシカレザーに20年近く取り組んでいる会社さんが、捕獲されたエゾシカをレザーに加工するということをしていて。

そこから僕がレザーを仕入れて、大阪にある創業70年の老舗バッグメーカーさんに依頼して製品を製造していただいている形です。

なので、僕が主に行っているのは製品の企画とデザイン、そして販売になりますね。

高山

すごい、、そのコネクションはどのように見つけていったのでしょうか?

渡辺さん

今はインターネットで調べられるので、徹底的に調べてFacebookなどで繋がって、飛び込んで、、という感じですね。

高山

なるほど。飛び込みというのはなかなか勇気が必要な気がしますが、、はじめはどのような準備をして飛び込まれたんですか?

渡辺さん

最初は本当にもう「教えてください!」という感じですね。

僕自身も本当に知識が手探りでしたし、今でもまだまだ足りない部分があるので、常にそのスタンスです。

製造していただく会社さんもメールでアタックしてみつけた形です。

かなりたくさんの会社にアタックして、でもほとんど返信は来ず、、、。来たとしても最小ロットがめちゃくちゃ多かったり、ロットが少なくてもすごく高い、、のようになってしまって。

ただ、一つは僕でもちょうどよいぐらいの価格で、ビジョンに対しても共感と応援のメッセージを送ってくださって。その気持ちだけで条件を抜きにして、是非一緒にやらせていただきたいなという感じでお願いさせて頂きました。

高山

それは嬉しいですね。

プロダクトが完成するまでの間で一番印象的だった出来事は何かありますか?

渡辺さん

実は、一番最初は製品を販売するのではなく、鹿についてのメディアをやろうと思っていたんですよね。

最初はインスタを立ち上げて鹿の情報を発信したのですが全然うまくいかず、、、。

そもそも誰も興味を持ってくれなかったんですよね。

高山

そもそも興味を持ってもらえないと情報を届けることもできないですもんね。

渡辺さん

そうなんですよ。でも、立ち返ってみると自分自身も鹿に縁もゆかりもなかったら興味を持っていないと思いますし、「はじめから鹿に興味のある人なんていないだろう」ということに気づきまして。

しかも、はじめから興味を持っているようなある程度詳しい人に届けたいわけではなくて、普通の人にそういった情報を届けて知ってもらうことが重要だなと思ったんですよね。

そこから試行錯誤した結果、レザー製品の販売という形になりました。

高山

なるほど。確かに、僕も渡辺さんの行動によってその課題を知ることができました。今後こういう方がさらに増えたら良いですよね。

人生の変化と将来像

高山

渡辺さんは元々「起業をしたい」と思われていたと先ほど伺いましたが、実際に起業をしてこのようにプロダクトを始めてみて「良かったな」と感じることはありますか?

渡辺さん

はじめて良かったと思うことしかないですね。

僕自身特にすごいことをしているというわけではありませんが、このように取材を受けたり、いろんなすごい人が僕の周りに集まってきてくれたり。

1年前は1人でこの部屋でもがいていましたが、ちょっと行動するだけでこんなに変わるんだということを実感するとともに、すごく嬉しい気持ちです。

それと同時に焦りも感じますが、、、

高山

渡辺さんのしていることがすごいから注目を集めるのだと思います。

ちなみに、今後渡辺さんが実現したい未来などはイメージしていらっしゃるのでしょうか?

渡辺さん

短期的な部分では「鹿レザーで突き抜ける」ということが目標ですね。

しばらくは鹿の領域に限って事業を行いたいです。というのも、僕がずっと身近で見てきたのは他でもない鹿なので。

僕が鹿の命に責任を持って事業を行っていければと思いますね。

長期的な部分では、よりその「命」を身近に感じてもらえる「体験」に寄っていくのかなと考えています。

高山

素晴らしいですね。具体的にはどのような体験を提供されるのですか?

渡辺さん

今僕たちが提供しているプロダクトの価値の一つに「自然」という要素があると思っているんです。

野生の鹿が大自然を駆け抜けた証である傷なども唯一無二の”キセキ”であって、僕らの手元でそれを感じられるのもミラクルであるような。

製品を通して自然に想いを馳せると同時に、自分自身の存在についても考えることができる。

自分自身もすごく大きななものの一つであることを感じつつ、今を生きていることの奇跡と幸せを感じられるのではないかなと思っています。

人間は誰しも、「自然に帰りたい」という秘められた欲求があると思っているので、そういった部分を満たすことができるような、野生や自然と人間の架け橋となるような体験を提供できるのが理想ですね。

高山

そのお話を聞くだけでも、渡辺さんがイメージされる世界を疑似体験できた気がします。

忘れかけていたものを思い起こされるような感覚を感じますね。渡辺さんの今後の事業がとても楽しみです。本日はお忙しい中本当にありがとうございました。

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Takayama

PenmarkNews編集長/24歳/社会人大学生/経験を生かし、大学生をはじめとするZ世代の皆さんの生活がより豊かになる記事をお届けします。
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