一度は諦めた研究活動をもう一度。医療用ゲルで世界に挑む手島涼太さんが掴んだものとは。

(夢を形にするためには)一歩踏み出す行動力と、そこから生まれたチャンスを逃さないことがとても大事。

どんな環境であれ、諦めなければ絶対にチャンスはやってくるし、手を差し伸べてくれる人が現れる。

そのチャンスをしっかり掴んで、次につなげていけるかだと思います。

-東京理科大学 手島 涼太

そう語るのは、東京理科大学に在籍し、”医療用ゲル”の実用化に向けた研究を行っている手島涼太さんだ。

サイエンス分野で活動するものであれば一度は憧れる、孫正義育英財団にも所属し、日夜研究に励む手島さん。中学から続くゲルの研究成果は、2020年に国際学術誌に掲載され、注目を集めている。

そもそも、医療用ゲルとはなんなのか?そして、手島さんがこの研究を行ってこれたのはどのような要因があったのか。

手島さんの研究の内容を紹介しながら明らかにしていく

プロフィール

項目 詳細
お名前 手島 涼太(てしま りょうた)さん
大学 東京理科大学 理学部第一部 応用化学科 4年生
ポートフォリオ 孫正義育英財団プロフィール

医療用ゲルとは

医療用ゲルとは、医療に用いるために開発されたハイドロゲル(内部に水を含んだ物質の総称。身近なものではゼリーなど)のこと。

人間の体は70%以上が水分であるということから、ハイドロゲルは生体の構造と類似性が高く、とりわけ再生医療などの分野で近年大きな注目を集めている。

ごく身近なものでは、「ソフトコンタクトレンズ」などがある。

インタビュー

”ゲル”の力で傷を癒す

高山

手島さん、よろしくお願いいたします。

手島さんは現在東京理科大学で”ハイドロゲル”の研究を行われていると伺いました。

具体的にどのような研究をされてらっしゃるのか、簡単に教えていただけますか?

手島さん

よろしくお願いいたします。

私が今行っているのは、「皮膚上などの創傷面に貼ることによって治癒を促進するゲル」の研究です。

このようなゲルは、一般的には創傷被覆材(Wound dressings)と呼ばれます。

傷ができたときって、一般的には乾燥させてしまったり、絆創膏を貼ったりすると思うんですけど、そもそも私たちの身体は70%以上が水でできています。

そのため、壊れた組織の再建には細胞に湿潤環境を提供し、生体内と近い環境を作ることで、治癒を促進させることができます。

そのような環境を提供でき、傷を早く癒せるゲルについて研究している形ですね。

高山

なるほど。薬局で見かける「キズパワーパッド」のようなイメージでしょうか?

手島さん

そうですね。身近なところだとそういったものが一番イメージしやすいかと思います。

比較的浅めの傷であれば、商品化されているものでも十分に治療できますが、真皮の奥まで怪我をしている人の治療や、深い火傷、あとは一般の人よりも治りにくいと言われている糖尿病の患者さんの傷の治療などは、良い治療法がまだ確立されていない部分もあるので、そういった分野に活かせないかを研究していますね。

研究者への憧れ

高山

話を昔に遡って伺えればと思うのですが、そもそも手島さんが”ゲル”というものに興味を持ち始めたのはいつ頃だったのでしょうか?

手島さん

まず、ゲルに興味を持ったのは中学生の頃に読んだ実験雑誌がきっかけです。

身近だったこともありますし、何より「触ってみたら面白そうだな」と思ったことがきっかけでしたが、将来的にここまで研究が続くとは思っていませんでしたね笑

高山

なるほど。当時から研究やそういった分野に興味を持たれていたんですね。

最初から医療分野に生かそう、という考えはあったのですか?

手島さん

ゲルと医療分野に関しては、最初は全くつながりは意識していなくて。

当時、中学生の頃から科学的なことはすごく好きだったので、漠然と研究者というものに憧れがありました。

中高一貫だったこともあり、研究活動は高校でも続けることができ、そのころは食品などに用いることを前提として研究していましたね。

ゲルと医療が結びついたのは高校3年生の時です。

当時は、ノーベル医学・生理学賞を受賞された山中伸弥先生のiPS細胞が世界中でとても大
きな注目を集めていて、その中で、「何か私も医療に貢献できる材料を作りたい 」と思ったことが研究のきっかけでした。

調べてみるとゲルは様々な医療用素材として研究がされていることを知り、私も先ほど述べたような創傷治療用ゲルの研究をスタートした形です。

手島さんのゲル

高山

なるほど。やりたいことを研究させてもらえる環境は素晴らしいですね。

ちなみに、手島さんが研究されているゲルはどのような特徴があるのでしょうか?

手島さん

私が研究しているゲルについては、2つ特徴があります。

  • 天然の海藻から抽出されたアルギン酸を原料に用いていること
  • 市販の炭酸水を酸性剤として用いていること

上記の2つです。

高山

なるほど。身近な材料を用いるんですね。

海藻は昆布やワカメのようなものを使用するんですか?

手島さん

昆布やワカメは身近ではありますが、いかんせん価格が高いんですよね。

私が研究しているゲルでは、ライフサイクルを終えた海藻から抽出されるアルギン酸を用いています。

もっと詳しく言うと、海岸に打ち上がった海藻から抽出されたアルギン酸を企業からいただいて、研究に使用しています。

高山

確かに!打ちあがっている海藻、、実家に帰るとよく見ます。

結構たくさん落ちてて邪魔なんですよね、、、。

手島さん

そうなんです。海藻はライフサイクルを終えると海の中を漂って最終的に海岸に打ち上げられるんですよ。

そこで、そのような不要になった資源をリサイクルするという観点も含めて、この研究をおこなっています。

不要資源から高機能な医療材料の開発を目指す点で、少々SDGsな側面もありますね。

高山

なるほど、、素晴らしいですね。

ちなみに、炭酸水を用いることではどのようなメリットがあるのでしょうか?

手島さん

私の研究のオリジナリティとなる部分が、この炭酸水を用いるという部分です。アルギン酸を使用するゲルはたくさんあるのですが、ここが独自なんです。

なぜ、炭酸水が良いのかというと、pHという数値のお話になってきます。

高山

酸性やアルカリ性の度合いを示す数値のことですよね。

手島さん

そうです。

前提として、形状を制御したアルギン酸のゲルを得るためには、ゲル化に酸性条件が必要となります。

そうすると当然、完成したゲルも酸性〜中性に近い状態になるんですね。

高山

なるほどなるほど。

手島さん

しかしながら、最近の研究成果によると、皮膚細胞の増殖や創傷閉鎖にはわずかにアルカリ性の環境が適していることが明らかになってきました。。

高山

なるほど、、なんとなく言いたいことがわかってきました。

つまり、炭酸水のアレを利用しようということですね。

手島さん

そうです。

炭酸水は、最初は二酸化炭素が溶けていてシュワシュワとしていますが、放置しておくとだんだん抜けていってただの水になってしまいますよね。

その特性を科学的に示すと、酸性の状態から徐々に時間が経つと酸性でなくなるというわけです。

なので、これをゲルに応用するとゲル化の時は酸性だけれども、時間が経つとゲルの中には過剰の酸物質が残らない、ということが実現するわけですね。

高山

なるほどなるほど。

とてもよく原理が理解できました。すごくわかりやすくて良いですね。

手島さん

この研究成果は、私が学部3年生の時に国際学術誌「Polymers for Advanced Technologies」に掲載されました。また昨年の学会でも最優秀発表賞をいただきました。

私の研究の一つのコンセプトとして「誰にでも直感的にわかりやすい研究」というものを意識しています。

簡単に作れるものでありながら、画期的という部分でお褒めの声をいただくことも多いですね。

今後もこのようなコンセプトは大切にしていきたいと考えています。

研究と孫正義育英財団

高山

ゲルについて詳しく教えていただきとてもよく理解ができました。

ここで一旦、研究の内容ではなく、背景のことについてもお伺いできればと思います。

手島さんは現在、「孫正義育英財団」の財団生として所属されてらっしゃるかと思います。

ある種、理系分野における憧れのステージともいえる財団ですが、手島さんが財団に入ることになったきっかけはどのようなことだったのでしょうか?

手島さん

そうですね。まず、私が財団に入ったのは大学3年生の時です。理由としては、「研究に必要なお金を援助してもらう」ためですね。

とりわけ、実験を行うのにはとてもお金がかかります。

大学では、あらかじめ研究室を主宰する教授が、研究内容に関して外部から研究費をもらいながら研究を行うスタイルが一般的なんですよね。

言い換えると、外部からいただく研究費のおかげで研究ができています。

高山

なるほど。それはありますよね。

自分も、好きな研究をなんでもできると思っていたので、それはちょっとしたギャップでしたね。

手島さん

そうなんですよ。

これは完全に自分の持ち込みのテーマだったので予算が全くなくて。

この研究をしたいとある教授に提案したときに言われた言葉が「予算を工面してください」だったんですよね。

そこで見つけたのがこの財団です。学費だけでなく、研究費用も全額出してもらえるので、ここしかないなと。

高山

素晴らしいですね。

財団の選考の準備は大変でしたか?

手島さん

実は、選考の準備というものはあまりしてないんですよ。もちろん、プレゼン資料などは用意しましたが、そのために何か新しいことをしたわけではないです。

私の印象ですが、今の自分がどういったことを成し遂げてきたのか、そしてどのような未来を描くのか。

自身の過去・現在・未来について明確なビジョンを持っている人が財団には多いと思います。

高山

なるほど、、今研究をしている人はどんどん挑戦できる可能性があるということですね。

研究に取り組むために

高山

先ほど、「予算を工面してほしい」ということで、財団から費用を援助してもらうことができたと伺いました。

ただ、同じような理由で研究のテーマを諦めてしまったり、研究を続けられない大学生も存在すると思います。

手島さんは、大学入学後、自身の研究に関してはどのように考えていたのでしょうか?

手島さん

そうですね。

そもそも、炭酸水を使ったゲルの研究は高校3年生の時に行っていたもので、大学に入ったらこのテーマでの研究はもうしないと思っていたんです。

学部1年生で研究をするなんて生意気だし、そもそもそういう環境も整っていない。なので、できないだろうと思っていましたね。

なんとなく勉強して、なんとなく4年生になって研究室に入るんだろうなと考えていました。

高山

そうだったんですね。

手島さん

ただ、高校までの研究成果だけは世の中に発表したいと強く思っていたので、大学1年生の頃は、高校生の頃の実験結果を論文にまとめる作業をずっとしていました。

もちろん全然うまく書けず、一度、挫折しかけてしまいしたが、ある時ふと思い立って1通のメールを送ったことが私の大学を変えたきっかけでした。

高山

どのようなメールですか?

手島さん

大学1年生の時、Googleで「東京理科大学 医療用ゲル」となんとなく調べて。

その時一番上に出てきた教授になんとなく、「高校の時こういう研究をしていたんです」とメールを送ったんです。

しかも深夜の0時ぐらいに、、笑

そうしたら、そんな時間にもかかわらず、10分ぐらいで返事が返ってきまして。

高山

ええ!すごい。

手島さん

たまたまその日、その教授が学会で発表する予定があるということで、「来ませんか?」とお誘いをいただいて

0時を過ぎていたので、ちょうど当日ですね。

その日は大学があったので、授業が終わってから大急ぎで学会に行ってその教授と初めて対面しました。

そこで、「高校生の時から研究をしているなんてすごいね」と褒めていただいて。

それから、「今度研究室においでよ」と言われ、後日訪れたのが大学での研究の始まりでしたね。

高山

なるほどなるほど。

小さな行動が大きな縁を生んだというわけですね。

手島さん

そうなんです。

自分は理学部なので神楽坂キャンパスなんですが、その研究室は千葉の野田キャンパスで笑

距離も相まって、本当に「遊びに行く」ぐらいの気持ちで行ったんですが、そこで言われたのが「もし本気で研究を続けるのであればサポートするから続けてみないか?」といっていただいて、そこから研究生活は本格的に始まりましたね。

高山

なるほどなるほど。

手島さん

この時教授に提案していただいたことに一言「ぜひやらせてください」と言えたこと、そして財団で費用を用意できたこと。

いろいろな要素が積み重なって今があるので、本当に一歩踏み出す行動力と、そこから生まれたチャンスを逃さないことがとても大事だなと感じます。

高山

確かに。そうですね。

自分も、何かチャンスを逃していないか振り返る機会を設けた方が良いのかなと思ってしまいます。

手島さん

私が恵まれていたのは、身近に手を差し伸べてくれる人がいたことです。

どんな環境であれ、諦めずにいればいつか実現できるチャンスが巡ってくるので、そのチャンスを見落とさないようにするかですね。

私の所属する孫正義育英財団の仲間も、異才・異能と言われる人がたくさんいますが、共通しているのは「チャンスを逃さずにいた」ということなので、夢を実現するためのキーワードなのかもしれません。

今後の夢

高山

非常に心に刺さる言葉ですね。

自分をもう一度省みたいと思います。

様々なチャンスをものにしてきた手島さんですが、今後どのように挑戦していきたいと考えられていますか?

手島さん

そうですね。今後は次世代型医療や未来医療に貢献できる研究者になりたいと考えています。

ただ近い目標としては本当にシンプルで。

今まで研究してきたゲルをいかに実用化まで近づけるかという点です。

現在は、動物実験を通した治療効果の実証にも取り組んでいるので、これからも研究をさらに加速させていきたいですね。

高山

なるほど。。

チャンスを逃さないだけで、いろいろな人の命を救うことにもつながるんですね。

手島さん

そうですね。

あとは、おそらく再生医療の実現も伴って未来医療は大きく変貌すると考えられます。

そのような未来に向けて、これからもシンプルなオリジナリティを大切にした研究を続けていきたいと考えています。

高山

手島さん、ありがとうございました。

ABOUT この記事を書いた人

Takayama

PenmarkNews編集長/24歳/社会人大学生/経験を生かし、大学生をはじめとするZ世代の皆さんの生活がより豊かになる記事をお届けします。
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